2017年の年頭所感

50年の歴史を築いてきたもの

 去年の世界の10大ニュースは、1位はトランプ氏のアメリカ大統領当選、2位は英国のEU離脱決定、3位は韓国大統領の弾劾成立でした。ISによるテロもますます世界各地で増えてきています。相変わらず大きな事件が目白押しで、激動の時代に入っているなと感じます。ただ1位から3位までは激動の予兆を示しているだけで、ほんとうに世界や社会に大きな変化が現れてくるのは今年からだと思います。何が起きるのか、どう変わっていくのかはよくわかりませんが、我が社が幾多の困難な状況を乗り越えて、ここまで続いてきた実績を考えると、そんなに心配はしていません。勿論、どんな変化にも対応できるように、心構えはしっかりもっていなければならないことは言うまでもありません。

 我が社は今年の7月で設立50周年を迎えます。日経新聞が1996年に新設法人8万社の行方を調査したところ、存続率は10年後には6.3%、20年後は0.39%、30年後は0.025%という結果が出ました。30年後には4,000社に1社しか存在していない。つまりほとんどの企業は30年で消滅するということです。我が社が50年も続けてこられたのは何故か、ということを考えてみました。

 一つは時代の変化に対応できたことではないかと思います。このビジネス環境の変化の激しいITの世界で、変化に対応できたのは「人の成長」に我が社の経営の焦点があったからではないかと思います。経営資源として「人」、「モノ」、「カネ」、「情報」などがありますが、今の時代は商品も技術もシステムもすぐに陳腐化します。そのサイクルはますます早くなってきています。ただ「人」だけはその変化と共に成長し続けることができるのです。

 二つ目は変わることのない我が社の軸となる理念ではないかと思います。「Good People Company」という人間尊重を軸とした理念があったからだと思います。一人ひとりの「人」としての成長が大切で、社員の人間としての成長が企業の成長を支え、社会の繁栄に貢献する。「いい人」が「いい会社」を創り、「いい会社が」「いい社会」を創っていくという想いです。

 企業活動の外側では、ビジネスの環境の変化に対応できる、そして変化を起こし続けるイノベーションを大切にし、そして内側では、いつの時代でも変わらぬ、しっかりとした軸となる理念があったからだと思います。革新と伝統、その両方に支えられて当社は50年の歴史を刻む事が出来たのではないかと思います。

 「顧客満足度の向上」はビジネスをするうえでとても大切なことですが、私は経営者視点から言えば、「従業員満足度の向上」の方が優先されると思います。顧客に接するのは社員です。社員が仕事に、会社に、誇りを持って、満足感を持っていなければ、顧客に満足感を与えることはできないと思います。

 当社が50年続けてこられた要因の根底にあるものは人間力によるものですが、この人間力で一番大切なものは何なのでしょうか。カーネギー大学の調査によると「成功の15%は仕事のスキルによるものだが、85%は人間の性格的要因、特に他人との人間関係能力によるものだ」と結論づけています。この人間力については、我が社ではGood People5箇条で表現しています。もう一度その5箇条について考えてみたいと思います。

Good People 5箇条

 1条 美点を見つめ、全てを愛する人

 人は漫然と過ごしていると、他人や社会の欠点ばかりが見えてきます。良いところは意識して見ないと見えてこないものです。相手の美点を見つけようとするには、相手をしっかり見つめないとわからないもので、相手と向き合うということになります。相手の美点を見ていると、自然に会話も相手の長所を誉めることになります。人は長所を誉められると、もっと認めてもらいたい願望が出てきて、さらに伸びていくものです。誉め言葉は相手の心身にエネルギーを与えるのです。人は自分を認めてくれる人に心を寄せます。相手の美点を見つめることは、周囲の多くの人を味方につけていくことになるのです。文句を言わず、不平、不満を言わず、人や社会、全ての状況を愛していくと、今度は神様が味方になってくれて、ツキも良くなり、人生がうまくいってきます。

 

 2条 相手の幸せこそが、自分の幸せと感じる人

 人は皆、幸せになりたいと思うのですが、ただ自分だけが幸せになりたいと思っても、周囲は協力してはくれません。相手を幸せにしていくと、自分にそれが返ってきます。儲けたいと思ったら、相手を儲けさせることです。幸せになりたいと思ったら、相手を幸せにすることです。自分の幸福度を高めたいなら、相手を幸せにすればいい。そして相手を幸せに出来たら、自分は確実に幸せになります。これほど確実に自分の幸福度を高める方法はないのです。勿論、相手の幸せを願っている人は、誰からも愛されていきます。悩みというのは自分のことを考えるから起きてくるのです。「人は誰かのために」と思った時から悩みは消え、希望が湧き、その希望が生きる力を湧かせてくれるのです。

 

 3条 夢に向かい、自創の心で歩む人

 夢はそれ自身が生きる希望や力を与えてくれます。夢を達成したから幸せになるのではありません。夢に向かっている今が幸せなのです。夢が達成されるまで、幸せになる事を待つ必要などないのです。ただ「あれも欲しい、これも欲しい」という欲望を、夢や希望という言葉にすり替えるのはやめなければいけません。夢は「志」に近いものが、より力を与えてくれると思います。
 そして夢に向かっては自創の心で歩むことが大切です。うまくいかないときや落ち込むときもあるでしょうけど、それを周囲や他人のせいにしていては前に進めません。周囲のせいにしていては、自分は成長出来ないのです。多くの壁にぶち当たることがあるかもしれませんけど、それは自分の行く道を阻むための壁ではなく、一歩一歩、歩んでいくための階段なのです。
 周囲や相手には何も求めないことが肝心です。その状況をどう解決するかを自分で考え、自分で行動していく事によって、自分に力が付いてくるのです。自分が思うように相手が行動することを期待する権利は、誰ももっていないのです。

 

 4条 人としての尊厳を大切にし、誇り高く生きる人

 人間は皆、「人」であるというだけで冒されざる尊厳があります。人は、弱い人や、ダメな人、犯罪を起こす人にだって、その内側には神にも似た冒しがたい魂の存在があります。それがどう現れてくるかの違いだけです。その魂の尊厳を感じたら、誰も責められないし、見下したりなどは出来ません。自分の中にもその崇高な魂があります。それを磨いていくことがこの世に生まれてきた意味だと思うのです。損得にとらわれず、他人が見ていようが見ていまいが、人としてどう生きるのがいいのかを常に考えながら、人として誇り高く生きていきたいものです。そういう人が結局は人の信頼を集め、得をしていくのではないかと思います。
 大切なことは全ての人を重要な存在とみなすことです。他人を変える力を持っている人はいませんが、相手を受け入れることはできます。相手をあるがままに受け入れると、相手に自分自身を変える力を与えることが出来ます。そうやって自分も、相手も、皆が成長していけるようにしていきたいと思います。

 

 5条 すべてに「ありがとう」

 「ありがとう」は世界で一番素敵で、一番人生を好転させていく力をもった言葉だと思います。「ありがとう」の語源は「有り難し」からきています。有る事が難しい、つまり奇跡のようなことがあった時に、神仏に向かって使われていた言葉で、一番最初に使ったのはお釈迦様だと言われています。それがだんだん人に向かって使われるようになって「ありがとう」になったのだと言われています。
  日本では人に何かをしてもらったときに、「すみません」と言う人もいますが、「ありがとう」と言われた方がずっと心に響いてきます。「ありがとう」と言われた人は嬉しくなるので、その人に好意の感情をもつようになります。つまり「ありがとう」と言われた人が、皆、自分の味方になって来るのです。「嬉しい、楽しい、愛している、大好き」などの言葉もそういった力をもっていると思います。反対に「悪口、不平、不満」などは周りにどんどん敵を作っていく言葉なのだと思います。
  人の悩みには「不安」と「不満」がありますが、不安は自分に対してもっているもので、これは聞いてあげるだけで解消していきます。「不満」は他者に対してもっているもので、これは聞いてあげると増殖していきます。不満は共感してはいけません。「Yes, but」でマイナス感情をプラス感情に変えてあげるといいと思います。

 苦手な人にも「ありがとう」と言っていると、味方になってくるし、厳しい状況でも「ありがとう」と言っていると、神様も味方になってきて、状況が好転していきます。たくさん「ありがとう」を言いましょう。「ありがとう」と言っていると心の状態も良い状態に変わっていきます。すべてに「ありがとう」

GRIT(やり抜く力)

 経営は儲けることより、続けることのほうがよほど難しく、そして大事なことです。いくら儲けたり、会社を大きくしても、倒産したら何も残らないだけでなく、大きい分だけ社員やその家族、周囲の人達にかける迷惑は甚大なものになります。会社は儲けることより、潰れない会社にしていくことが大事なのです。
 続ける力は、最近注目されている言葉でいうと、GRIT(グリット、やり抜く力)に通じるのではないかと思います。成功する人や一流選手になる人は天才といわれるような才能のある人ではなく、「やり抜く力」の強い人だということです。努力は才能に勝る。困難にあっても、めげない、あきらめない力。一度決めたら、目標をあれこれ変えない、目移りしないで最後までやり抜く力。「やり抜く力」は「頑張る力」とは違います。いくら頑張っても、止めてしまったらそこで終わりです。何年も何十年もかけて、コツコツと目標に向かって努力を続ける力が、大きな功績を残していくことができるのです。

100年企業を目指す

 当社は今年50周年を迎えます。冒頭に企業は30年でほとんど消滅すると書きましたが、日本は長寿企業の多い国です。2013年の帝国データーバンクの調査では、日本では設立100年以上の企業が2万6千社あるそうです。200年以上の企業も韓国の調査機関の発表では世界に5,586社あり、そのうち日本には3,146社あるそうです。韓国やアメリカは“0”です。(建国からの歴史を考えると当然かもしれませんけど)

 なぜ日本はこんなに長寿企業が多いのでしょうか。日本の歴史からみると、他の国よりは紛争や戦争が少なく平和が続いている、ということもあるでしょうが、日本には江戸時代から「お家」を大事にしたり、商人も「のれん」を大切にしていくという文化があったと思います。個人主義で自分の利を大切にする文化と違い、自分の所属する集団の仲間を大切にし、その集団の目指している想いを大切にして、継承していこうという文化があったからだと思います。我が社も自分の利だけでなく、「三方良し」の精神で、皆の利を大切にし、ともに成長、発展していくという共生の理念を深め、それを現場の仕事の中で、どんどん実践していきたいと思います。

 50年もの間には辞めていった社員も多くいましたが、その人たちも含めて、改めて当社を支えていってくれた社員、お客様、関係者のみなさんに深く感謝したいと思います。

 我が社が、次の100年企業に向けて、人間尊重の理念を大切にし、長寿企業として広く、長く、社会に貢献していける企業になれるよう、みんなで頑張っていきましょう。

2017年(平成29年) 1月5日

株式会社エスピック 代表取締役 島 至