2018年の年頭所感

人としてちゃんと生きる

 去年は当社の50周年を迎え、台湾への社員旅行や国技館での50周年パーティなど、大きな行事があり、当社にとって大きな節目の年となりました。私にとっても社長になって30年目であり、これから次の世代にバトンタッチしていく前の集大成となる年でした。

 節目となる年の年頭に、これまでの仕事や人生を振り返ってみて、自分の人生の軸となっているものは何かと考えた時、それはやはり「人間学」にあるのではないかと思いました。「人間とは何か?」「人は何のために生きるのか?」ということに興味があって、いつもそのようなことを考えてきたように思います。経営をしていても、判断の基準として「どちらが儲かるか?」ということより、「人としてどうあるべきか?」という判断基準に重きをおいてきたと思います。バブル期の時は、儲かるからといろいろ投資の話がありましたが、興味が湧かなかったので、手は出しませんでした。バブル崩壊の時には、資金繰りが苦しく、その月の社員の給与の支払いの目途も立っていない時に、お客様から間違って数百万の振り込みがあった時がありました。一瞬これがあると助かるな、と思ったのですが、返さなければいけないので、お客様に連絡をしたところ、「ああ、そうですか、では来月の支払いに廻してください」と言われ、とても助かった思いをした、ということもありました。人を裏切らず、人の気持ちを大切にしようと思っていると、逆に多くの友人や社員やお客様に助けられて来ました。どういう時も「人としてちゃんと生きる」ということが一番大切なのだ、と心に刻み込まれてきました。人は一人では生きられません。多くの人に助けられ、神様にも応援されて、運やツキに恵まれて、ここまで来られたと思っています。

 ある人が当社の社員に「いろいろ悩んだ時、君はどういう基準で判断する?」と聞いた時、その社員は「どちらがGood Peopleか?ですね」と答えたそうです。当社の理念が浸透してきているなと思えたエピソードです。それが最近の業績の向上や50年の歴史に繋がってきているのだなと、改めて思います。

情を磨く

 人間学を学ぶということは、人の「こころ」を学ぶということだと思います。心というのは「情」の世界だと思います。科学技術の発展とともに、知性とか論理的思考が重要視されて来ていますが、社会は人間集団の世界だから、人の心の動きというものがわかっていないと、ビジネスもうまくいかないように思います。利益や効率やスピードだけを追い求めても、ビジネスはうまくいかないと思います。相手がどう思うか、どう感じるか、を知ることが大事です。仕事は品質や価格やサービスだけでなく、自分たちがどういう思いで仕事をしているか、周囲の人達やお客さんがどう思うか、という視点が大切だと思います。

 私達が扱っている情報も、「情報とは情を報じる」ことですから、情の部分に精通していないと、いい情報は提供できません。損得勘定や自己主張ばかりでは、社会はますます乾いていってしまうと思います。情を深めるには友情や愛情、人情の機微に触れていくことが大切だと思います。いい人やいい本に出会うのもいいと思います。いい本やいい映画に触れて涙する人は、情の深い人だなと思います。人には波動がありますから、初めて会った人でも、一目見て、少し言葉を交わしただけで、「この人はいい人だな」とか「この人とは一緒に仕事をしたくないな」とか感じます。儲かる話がきても、直感的に「胡散臭いなー」とか「嫌だなー」と感じる時は、しない方がいいと思います。情を磨くことによって、そういう直感力が身に付いてくるのだと思います。

諦観とは諦めて観る

 去年は北朝鮮に振り回された1年だったように思います。ISによるテロとの戦いがようやく下火になってきたと思ったら、今度は北朝鮮とアメリカの戦争の可能性が、現実味を帯びてきています。なんで21世紀にもなって、人類が滅亡するかもしれない核戦争の心配をしなければならないのでしょうか? 毎年、必ず人間のエゴや憎悪や妬みなどによる大きな事件や争いが発生します。これも神の仕業だとしたら、神は我々に何を伝えようとしているのでしょうか?「この世で起きることに意味のないものはない」のであれば、この事態の意味するところを、どのように捉えていったら良いのでしょうか?

 この世はもともと不条理なように出来ていて、その中で私達一人ひとりが、心の葛藤を通して、自分の魂を磨いていくようになっているように思えます。だからこの世では格差も差別もあるのが当然なのだと思います。殺人も戦争もなくならないのでしょう。そういった社会や世界の中で、自分がどう考えて生きていくかが大事なのです。世界にはいろいろな価値観があるし、国や宗教や文化によって考え方や感じ方も違ってきます。相手を自分の思う通りにすることではなく、違いを認めて、両方を受け入れた、もうひとつ大きな視点や価値観を磨くことが重要だと思います。自分に危害が及びそうな時は、必要な備えをしなければいけないと思いますが、必要以上に心配をしたり、不安になってもしょうがありません。他人や社会は自分の思う通りにはいかないものだし、思う通りにするものでもありません。自分ではどうしようもないことは、積極的に「諦める」のがいいと思います。他人のこととか、世界の事象のこととか、自分ではどうしようもない事は諦めるのがいいと思います。いろいろな事をそのままに受け止めて、心を深く、広く、磨いていく事です。諦観とは「諦めて観る」ことで、それを「悟り」と言うそうです。

リーダーは「小人」よりは「愚人」のほうが良い

 それにしても最近の世界のリーダー達には、自分達の事ばかりを考える人が多いなと思ったりします。しかし、それも皆が選んだり、応援したりしているから、国のリーダーになっている訳で、私達一人一人の問題だと思います。自分たちの中に「自分が良ければ」とか、「自分にとってどちらが得か」という考えの強い人が多いから、そういう人達が選ばれるのだと思います。もっとも、徳のある人は権力には無関心な人が多いから、政治の世界にはなかなか登場してこないのかもしれません。坂本竜馬のような人は、激動の時代にしか表舞台には現れてこないのでしょう。

 中国の司馬光という人が書いた「資治通鑑」という本によると、人間の能力を「才」、人間性を「徳」とした場合、才も徳もある人は「聖人」、徳が才に勝る人は「君子」、才が徳に勝る人を「小人」、才も徳もない人は「愚人」と言うそうです。会社でもリーダーとなる人は、聖人君子がいれば勿論いいのですが、なかなかそんな立派な人は滅多にいません。そこで「小人」をリーダーにしてしまうことがありますが、それが一番危ないそうです。才があっても徳のない人は、自己の栄達のために組織を危険な状態にもっていってしまいます。長い目で見れば愚人の方が少しずつ成長していくので、小人をリーダーにしていくより良いと言われています。リーダーに最も必要なものは徳であり、徳性を感じさせる品格だと思います。

優秀さとは良い習慣

 「徳性を磨く」ということは、自分の「こころを磨く」ということ、「人間力を磨く」ということです。これは日々の小さな出来ごとのなかで、心の葛藤を通じて磨いていくのです。腹が立ったり、妬んだり、不安になったり、落ちこんだりした時に、心の状態を切り替えて、笑顔で答えたり、考え方を積極的にしたりしながら、日々の葛藤の中で心を磨いていくのです。腹が立っている時は、すぐに話さない方がいいと思います。一呼吸置くために「黙る」ことです。アメリカの第3代大統領のトーマス・ジェファーソンがこう言っています。「怒っている時は10数えろ。それでも怒りがおさまらない時は100数えろ」少し時間が立つと些細な事だなとか、相手の気持ちだとかがわかってきて、冷静に話す事が出来ます。そういう日々の自分の心との葛藤の中で、心が磨かれていきます。その葛藤を続けていくには、「自分はこういう人間でありたい」という意思が必要です。その意思がいろいろな「気づき」を与えてくれます。

 人は幸せになりたいと思うものですが、幸せになりたいと思っている人は幸せになれません。私は幸せだと思っている人が、幸せになります。幸せは探すものでも、手に入れるものでもありません。幸せは「気づく」ものなのです。今の自分の心の状態を変えていく事が「こころを磨く」ということです。「今が楽しい。今がありがたい。今が喜びである」常にそう思っていると、それが習慣となり、日常の想いとなります。そういう状態になれば、それが最高の生き方だと、私は思います。相手を想いやる、約束は守る、嫌なことがあっても笑顔でいる、決めた事は必ず守るなど、常に心がけていれば、次第にそういう状態になります。優秀さとは能力でも、行為でもなく、良い習慣なのです。

100年企業を目指して

 私は今年で68歳になります。そろそろ次の人達にバトンタッチしていきたいと思っています。そして皆さんがSPICをさらに良い会社にして、SPICの理念を社会に広げて、良い社会を創っていってもらいたいと、強く思っています。経営者は「何をしたか」よりも、「何を次の代に手渡せたか」が大事だと思います。30年の経営の中で「人間尊重」の想いが少しでも残せたら、嬉しく思います。皆さんにSPICをさらに磨き、さらに成長させて、100年企業に育てていってもらいたいと思っています。

 長寿企業となるための視点は次の3つあると言われています。

1.創業者視点
2.顧客視点
3.共創視点

創業時の理念や伝統を守り、お客様視点から社会の時流を見極め、常に事業を革新し続け、共生の理念の基に、周囲の多くの人達や企業と共生していくことが、大事だと思います。社会は流動的で、これからも不況など、いろいろ困難な状況はたくさん出てくると思いますが、会社は外部の圧力からは倒産しません。倒産するとしたら、それは常に内部の崩壊からです。内部がまとまっていれば、どんな状況が来ても会社は潰れません。人の絆は長く一緒にやっていることに拠って、深まっていきます。いろいろな状況を一緒に乗り越えていくと、気心が知れて、情が深くなってくるからです。皆がまとまって、次の時代を築いていって欲しいと思います。

 

 最後に坂村真民さんの「あとから来る者のために」の詩で終えたいと思います。

 

 あとから来る者のために
 田畑を耕し 種を用意しておくのだ
 山を 川を 海を きれいにしておくのだ
 ああ あとから来る者のために
 苦労をし 我慢をし みなそれぞれの力を傾けるのだ
 あとからあとから続いてくる あの可愛い者たちのために
 みなそれぞれ 自分にできる 何かをしてゆくのだ

2018年(平成30年) 1月9日

株式会社エスピック 代表取締役 島 至