不透明な時代に求められている新しい社会とは
昨年の我が社は、未来会でのエスピックの10年後のデザインやGoodPeople5箇条の発表、社員総会や採用プロジェクトの活動、人材育成室の発足など、我が社の軸が確立し、全社で共有できた年だったのではないかと思います。上期は順調に推移してきましたが、下期に入って世界に激震が走りました。何しろ去年は2兆円以上の利益を出していた日本のトップの企業が数か月で赤字に転落するのです。大変な激動期に突入したと言えるでしょう。過去に経験の無い激しい変化です。この不透明な時代にどう対応していくべきかということを年頭にあたって考えていきたいと思います。
人生でも何かが起きた時、この出来事はどういう意味をもっているのか?我々に何を伝えようとしているのか?と考えてみることが大切だと思います。この数カ月で世界で何百兆円も無くなったという出来事は、お金がお金を増やすという資本の論理の衰退、終焉が始まったと言えるのではないかと思います。乱暴な言い方をすると「マネーゲームや金儲け主義で儲けていた人達が損をしただけ。これからは金儲け主義では儲からなくなった」と考えることもできるのではないでしょうか?その余波を、それに縋って生きてきた我々も少なからず影響を受けているだけではないかと。その金儲け第一主義、経済第一主義を改めろと言われているのではないでしょうか?新しい企業のあり方、新しい人の生き方が求められているのではないでしょうか?100年に一度の不況と言われていますが、松下幸之助さんの言葉に「不況というのは商品が吟味され、経営が吟味され、経営者が吟味される時である。従っていい経営者のもとに人が育っている会社は好景気の時は勿論であるが、不況の時はさらに伸びる時である」というのがあります。商品が企業が、そして人が選別されて淘汰されてくる時代だと思うのです。社会から支持されない経営をしている企業や、皆がいいなと思えないような生き方をしている人は淘汰されていくのだと思います。ですから自分が信念を持って正しいと思う生き方や経営をしていれば不安になることもないし、逆にチャンスだと思うのです。そうでない部分があったとしたら、自らを振り返り、襟を正していくチャンスだと思います。急速に社会が変わろうとしています。どういう社会かというと、僕はもっと人が大切にされていく社会が求められていると思うのです。人が変わらなければ、いくら社会の仕組みを変えてみても、同じことの繰り返しが続くだけだと思うのです。利他の思想―相手の利益や、相手の幸せを叶えていくことが結局は自分の利益、自分の幸福に繋がるという考えに基づいた社会の構築が必要だと思うのです。経済が中心である「資本主義」から、人を最も大切にし、人が社会の中心であるという「人本主義」のような社会が求められてきているのではないかと思います。
揺るぎ無い軸が必要
今年は誰もがどうなるか分からない、先が見えない不透明な年だと言います。こういった時代に必要なのが生きていく上での軸、判断の原点となる揺るぎ無い軸なのではないでしょうか。判断に迷いが出たり、悩みや不安が起きるのは、自分が生きていく上で何を一番大切にしているかという軸ができていないからだと思います。うまくいこうがうまくいくまいが自分はこう生きていくしかない。今はうまくいかなかったとしても、そのうち必ずいい結果が出てくる、という確固とした自信に裏打ちされた軸があれば迷いません。正しい道とは右の道を行こうが左の道を行こうが正しくなる道のことです。その軸がないからA を選択して儲からないと失敗だと思ったり、B を選択してうまくいくといい気になって、そのあとより大きな失敗をしたりするのです。
悩みや不安は何かの出来事によってもたらされるのではなく、出来事の受け止め方によってもたらされるのです。その物事を受け止めていけるしっかりした軸をもっていれば、大丈夫なのです。成功や失敗は自分の勝手な解釈です。何を成功とし何を失敗とするかは自分で勝手に決めているのです。大切なのはいろいろな出来事から受ける「気づき」です。この不透明な時代は先の事は計算できないし、わかりませんから、判断するときの根拠は自分の意志と直観力だけです。この直観力を磨いていくのがこの「気づき」なのです。
根を張る
私たちは木を見るとき、その枝ぶりや果実に目がいきますが、枝葉や果実はその根の広さ、深さに比例しているのです。大きな木はそれと同じぐらい根が広く深く張っているのです。果実を付けようとするよりも、根を深くすることを考えるべきです。人生の外側を彩ることを考えることより、自分の内側を成長させることを考えるべきです。自分の内面はこういう困難な時に成長していきます。家庭菜園でトマトやキュウリを栽培するときにはコツがあるそうです。初めに水をあげてから、しばらくは水をあげずに、もうこれ以上あげないと枯れてしまうというギリギリのときに水をあげるのだそうです。そうすると初めから水を上げていったトマトやキュウリより、よく育つそうです。それは水をあげないことによって、根が水を求めて広く深く張っていくからだそうです。根が伸びていくようになれば、その後は普通に水を上げればいいのだそうです。
人生では大きな果実を付けようとすることではなく、自分の根を張っていくような生き方をすれば、自然に自分の人生に果実が付いてくるのです。今の状況や社会に不満や愚痴を言っていても始まりません。人生に問いを発するような生き方ではなく、人生からの問いに答えていくような生き方をすることによって、自分の心の根が深くなって、成長していくことができるのだと思います。
軸を見定めたら、あとは実行
今年は予測のつかない不透明な年です。この不透明な時代に向かっていくのに、年頭にあたってもう一度何を一番大切にして生きていくのか、自分の軸を見つめ直しておきたいと思います。去年を象徴する漢字で「変」が選ばれましたが、近年、技術も社会のニーズも環境も大きく変化しています。しかもそのスピードがとてつもなく速くなってきています。変化に対応が追い付かなくなってきていますが、それでもその変化に必死に対応しながら、しかし「不動の価値軸」を見出していくことが大切です。我が社の軸は「人」であると、昨年皆で認識を共有しました。その軸をしっかり持ちながら、時代の波を右に左に上手にかわしながら着実に前進していきましょう。歩くときは右足と左足を交互に出しなら前に進むものです。経営でも成長と安定を交互にバランスよく対応していくことが大事です。軸があればバランスよく前進していけます。又「歩く」というのは少し止まると書きます。階段も踊り場があって、螺旋状に上に登っていくものです。必死に駆け昇ったら、少し立ち止まり、過去を振り返り、未来を見据え、そして時代がどの方向に進んでいくのかを見定めたら、また力一杯前進していけばいいのです。
そして人生で目標や計画を立てることも重要ですが、その目標に向かって小さな一歩を踏み出すことがもっと重要です。実力とは実(行)力のことです。実力のある人とは実行力のある人です。やる気が出たら行動するのではない。行動するからやる気が出てくるのです。
我が社の真価が問われる年
そして大事なことは「方針が正しいから結果が出るのではなく、結果の出る方針が正しい」という現実をしっかり理解して進んでいくことです。目的地がはっきりしていなかったら勿論目的地には着きません。でも目的地を目指していても、皆で息を合わせてしっかりオールを漕がなければ、船は進んでいきません。今年の海はかなり荒れそうです。皆が一人一人自分の役割をしっかりこなして、エスピックという船を大きく前進させていきましょう。
私は人を大切にする社会を築いていきたいと強く思っています。それには結果を出さなければだめです。結果を出すことによってこそ、方針の正しさを証明することができるのです。今年は我が社の真価が問われる年です。今年は我が社が社会で必要かどうかが問われる年です。人を大切にしていく社会を築いていく大きなチャンスです。我が社が歩んでいる方向の正しさを証明しましょう。自信をもって突き進んでいきましょう。
平成21年1月5日
株式会社エスピック 代表取締役社長・島 至