2016年の年頭所感

新しい世界のグランドデザインは

 去年はどんな年だったかと振り返ってみると、すぐに思い浮かぶのはISの影響によるテロの拡散、増大です。宗教や民族、国家間の憎悪と対立はますます深まっているように思います。イスラム国に対抗して世界がまとまろうとしても、それぞれの国の思惑があって思うようにまとまらず、効果的な対応が出来ないままでいます。シリアからの難民を世界が受け入れようとしていると、また新しいテロが起き拒絶の空気が世界に広がっていきます。アメリカの大統領候補であるトランプ氏がイスラムの人達を差別するような発言をして、ひどいなと思っていると逆に支持率が上がっていきます。こんな人が世界のリーダー的存在であるアメリカの大統領になったら世界はどうなってしまうのでしょうか。まさか選ばれないとは思うけど、選挙の直前にアメリカで大きなテロが起こったりすると、あり得ない話ではないと思うとぞっとします。テロが突きつけている問題はテロを起こす人たちだけの問題ではなく、それに対応していく私たちの問題なのだと思います。私たちの差別や自己保身の意識が一番の問題なのだと思います。世界のリーダーたちは自分たちの国の利害を超えて、これからのあるべき世界のグランドデザインを示し、それを推し進めて行こうとする強いメッセージを打ち出して欲しいと思います。テロが国内に入ってくると困るから、どうリスクを防ぐかということばかりを考えていてはいけません。学校のいじめの問題でも、いじめている人達に「やめろ!」というと自分にも矛先が向くから黙って見ている、というような態度は卑怯だと思います。リスクを負ってでもあるべき姿に向けて毅然とした対応をすべきだと思います。

 今ほど私達が目指している共生の理念、国も民族も宗教も価値観も違う人たちが共存・共生していく社会=共生の社会が求められているときはないと思います。今世界が必要としているのは新しい社会のグランドデザインです。もし共生の理念が世界に浸透していったら憎悪や対立が緩和され、例えば軍事費なども世界から不要になってきます。ある国で軍事費を増大させるから、対抗上こちらも軍事費を増大せざるをえない。そうやって国家の予算の何割かを軍事費に費やしても、そんな軍事力はもう使うことはできません。使ったら世界が破滅するほどの軍事力を持ってしまったのですから。この軍事費を世界の平和のために使ったらどんなにか住みやすい世界が出来るのに、と思います。

貧しい人とは無限の欲を持っている人

 イスラムの人たちの反発は根底に貧しさがあるからといわれたりすることがあります。世界の先進国はキリスト教の人たちが多く、豊かさを享受していて、それに対する妬みがイスラム教の教義を利用して噴出しているという見方もあります。格差の問題は大きな社会問題ですが、もし中国やインド、アフリカの人たちが欧米の人たちと同じような生活をしたとしたら世界はどうなるのでしょう。食糧やエネルギーは足らず、環境は破壊され、北京の街どころではなく、この世は息も出来ない世界になってしまいます。格差の是正が根本の問題の解決ではないと思います。私達は幸せで豊かに暮らしていきたいと思っていますが、豊かさとは何でしょうか。世界一貧しい大統領と言われたウルグアイのムヒカ大統領はこう言っています。「貧しい人というのはモノや金を少ししか持っていない人のことではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」。豊かさとはモノや金が豊富にあり、贅沢な生活をすることではなく、幸せであること、心の充足感にあるのではないかと思います。彼は公邸には住まず、自分の家の農家に住み、給料の9割は施設などに寄付しています。ウルグアイをヒッチハイクしていた旅人がようやく止まってくれたフォルクスワーゲンに乗り込んだら、それは大統領夫妻が運転していた車だった、というニュースも世界で取り上げられたことがあります。彼は若い時は左翼ゲリラに属し、数々の襲撃、誘拐にたずさわり、6発の銃弾を受け、4度の逮捕を経験(そのうち2回は脱獄)したという強者でした。最後の逮捕の時は13年も収監されており、左翼政権の誕生とともに議員となり大統領まで上り詰めた人です。彼は若い時は理想の社会を求め、時の政府と戦ってきたのですが、晩年になって社会は形ではなく、そこに住む人の心が変わらなければいい社会は創れないと悟ったようです。

インターステラ―

 最近観た映画で「インターステラ―」という映画が面白かったです。SF映画で地球が滅亡の危機に陥って、人類が住めるような他の惑星を探しに行くというストーリーですが、親子の愛を軸にして時間や重力を解き明かしながら4次元、5次元の世界を描いているのですけど、その中で探査チームの女性がこんなことを言っています。「愛はまだ解明できていない高次の物理作用かもしれない。愛だけが次元と時間と空間を超えるものだ。まだ理解出来ないとしても私たちは愛の力を信頼しなければならない」。何かの判断基準に愛を持ってくることが非科学的なものではないといっているのが面白かったです。

世界を癒す宇宙エネルギーは「愛」

 アインシュタインが相対性理論を発表したとき、世界の人はまだ理解ができませんでした。「時間と空間は相対的であり、光速に近づいて進めば時間は遅くなり、モノは縮む。重いものの周りでは時間は遅くなり、空間は歪む」。絶対的と思われていた時間や空間が変化するということは驚愕でした。しかし今では実用化されており、時間の伸縮や空間の歪みが計算されなければ月にもいけないし、宇宙ステーションのドッキングなどできはしません。   

そのアインシュタインが娘に宛てた手紙でこう書いています。「現段階では、科学がその正式な説明を発見していない、ある極めて強力な力がある。それは他のすべてを含みかつ支配する力であり、宇宙で作用しているどんな現象の背後にも存在し、しかも私たちによってまだ特定されていない。この宇宙的な力は『愛』だ。世界を癒すこのエネルギーは、光速の2乗で増殖する愛によって獲得することができ、愛には限界がないため、愛こそが存在する最大の力であるという結論に至った」。

 愛が宇宙エネルギーであり、世界を癒す方向(いい方向)に働く最大の力であるという考えは面白いと思います。時間が可変であるといわれたときと同じように、我々にはまだ理解不能ですが、日常的な生活の中でもその存在、その力は感じています。いつか愛が計測され科学的な証明ができるようになれば、世界は進むべき方向を見出すことができるようになれると思います。この世界を癒すエネルギーは我々人間が最も所有し、一人ひとりがそれを発露させていくことに拠り、世界がより良い方向に進んでいくのだと思います。

 2000年前に救世主といわれているイエス・キリストが愛の概念を世に広め、天才的科学者のアインシュタインが地球を癒す方向に働く宇宙エネルギーは愛だと言っています。今の世界に欠けていて、そして最も必要とされているのはこの愛のエネルギーではないかと強く思うのです。

「運がいい」のは宇宙の法則に沿って生きているから

 世界の成功者に成功の秘訣を聞くと、一様に「自分は運が良かった」という答えが返ってくるそうです。「運がいい。ツイテいる」出来事というのは偶然起こることではなく、宇宙の法則に沿って生きているから起きてくることだと思います。自分の我欲に走るから、「運が悪かったり、ツイテない」ことが起きてくるのだと思います。「愛」がうまくいくための大いなる宇宙の法則だとしたら、「生きる」とは「愛する」ということなのだと思います。勿論「うまくいく」とは金持ちになるということとは違います。金に不自由しないということも含めて(ムヒカ大統領もお金に不自由はしていないと思います)、人間関係も良好で、辛い状況にもあまり会わず、幸せに生きていくということです。

 自分の周囲の状況や環境は自分の発した言葉でできています。常に「嬉しい、楽しい、幸せ」なことを話していきましょう。決して「不平、不満、悪口、文句」などは言わないようにしましょう。自分が発した言葉の現象が起きてきます。「怒り」は自分の心も体も傷つけてしまいます。一升瓶に普通の心理状態で息を吹き込み、そこにハエを入れると40分くらいで「窒息死」するそうです。ところが、怒ったり、腹を立てたりした状態で怒気を吹き込むと、瓶の中のハエは3分ほどで「毒死」するそうです。このような毒素をいつも体内に発生させていたら、自分の五臓六腑まで傷つけてしまうのは当然のことだとわかります。これも物理現象なのです。

愛とは相手の傍にいてあげること

 西洋のキリスト教的な「愛」の概念を東洋的な儒教・仏教の世界で表すとしたらなんという言葉が相応しいのか考えてみました。それは「仁」ではないかと思いました。仁は儒教が主張した愛情の一形態で孔子がその中心に据えた人間関係の基本思想です。仁という字は「人が二人」と書き、人と人の間の愛情を表現しています。愛の究極の形は「ただ、相手の傍にいてあげること」ではないかと思います。相手をありのままに受け入れて、ただ寄り添っていてあげることです。人間ですから時にはイライラしたり、腹を立てたりすることもあります。この人とはもう付き合いたくないと思うこともあります。それでも、何もしなくていいから、何も言わなくていいから、ただ心の中で「ありがとう」と言って心を相手に寄り添わしていくことが愛の本質だと思います。

新しい価値創造

 世界はこの100年、200年の間に大いに発展してきました。ただ世界の深刻な環境問題でもわかるように、このままの価値観で世界を発展させていったら、世界は破滅的な状況になっていってしまいます。今の世界は時代の分水嶺にたっているのではないかと思います。宗教も主義も、働くということ、生きるということ、全てに新しい価値軸が必要になってきているのだと思います。新しい価値軸の根本となるものは何か?それは「愛」の概念ではないかと思うのです。

 近代国家を創ったフランス革命では「自由」「平等」「博愛」の理念が掲げられました。「自由」に重きを置いた資本主義社会、「平等」に重きを置いた社会主義社会(共産主義社会)、共に人間の我欲によって綻びを見せています。これからの私たちが目指す社会は「博愛」に重きを置いた新しい社会像ではないかと思います。

人本主義

 人本主義は人間愛を中心的価値観にした社会です。経済的価値を中心的価値観にした資本主義社会とは根底にある理念が違います。日本はアジアではいち早く欧米の社会システムを取り入れて近代国家を築きあげてきましたが、もともと持っている日本的な人間尊重の理念を融合させて、良い悪いは別にして年功序列や終身雇用といった独特の社会システムを創ってきました。

 競争を求めず、拝金主義でもない一般的な日本人が持っている資質をベースにした人本主義がこれからの世界を導いていく一つのモデルではないかと思います。根底に愛を軸とした人本主義が新しい世界のグランドデザインのひとつになって欲しいと思います。

 我々はこれからも大いなる新しい世界の構築を目指して、小さな一歩を歩んでいきたいと思います。

2016年(平成28年) 1月5日

株式会社エスピック 代表取締役・島 至